奇天烈大百科(メガネ) 「やーい、このガリベンー」 「悔しかったらメガネなしで黒板の文字読んでみろー!」 ありがちな川原の土手にて英一くんがいじめられている。 相手はトンガリとブタゴリラ率いる、「どうでもいい 脇役ども」。 「すましやがって、ムカツクんだよ」 「秀才面してんじゃねえ」 「明日からメガネ外して登校してこいよ。げはははは」 北斗の拳におけるジート級のチンピラゼリフを残して、いじめっ子達は去っていった。 「ううっ……」 さわやかさのカケラもなく、はたきおとされたメガネを手に涙ぐむ英一君。 その手をおおきくふりかぶって… 「…こんなものっ…!」 水面へ向かって、その手からメガネが投げられようとした今まさにその時! 「やめるダスよ」 「?!」 いつのまにか、一人の学生、いやもとい、学生にしては少々フケすぎている無精髭の男が英一の手首をつかんでいた。 「そんなことをしても何にもならないダスよ」 男はとても現代のものとは思えない分厚いビン底メガネ(うずまきアレンジ)の奥から、英一に静かな視線を注ぎ、 「勉強にメガネはつきものダスよ」 諭すようにそう言った。 「でも…でもっ…!勉強ができたって、成績がよくたって…!」 英一くん、そのあとが言葉になりません。止まったはずの涙がまた溢れ出す。 「ははあ、いじめられたんダスな」 ビン底メガネの男はのんびりと年上のお兄さん的な笑みを浮かべながら、英一の顔をのぞきこんだ。 「君、名前はなんて言うんダスか?」 東北弁のなまりは人をなぐさめる時、とてもやさしく聞こえる。 「え、英一。木手英一です…」 「そうダスかぁ…。英一くん、君、本当にメガネを捨てたいんダスか?」 英一はあたりをうかがいながら、恐る恐る首をふる。 「なら大事にしなきゃいかんじゃないダスか」 「でもっ…あいつらが今度メガネをかけてきたらって…!」 男は必死の英一に言葉を投げかける。 「じゃあ、メガネをかけていかなかったらもうイジメられないんダスか?」 「そ、それは…」 「今度は勉強ができるからって、イジメられるんじゃないダスか?」 「う…」 「そしたら勉強をやめるんダスか?」 「……」 ビン底メガネの男、一息つく。 「英一くん、それは自分の大切なものを失っていくばかりダスよ」 「うっ…ひっぐ、うひっ…」 肩を震わせ、地面を向いて泣き出す英一。 そっと、男はその手に持った英一のメガネを彼の小さな耳にかけさせた。 「これは」 「君によく似合うダスよ」  「………ひっ」 「うわああああああん」 感極まった英一は男の胴体に抱きつき、今まで出したことがないほど大きな声で泣いた。 ……… …… そしてしばらく後、 「そうダスかぁ。そのメガネはご先祖さまのものダスかぁ」 二人はならんで土手に腰かけ、話している。 「はい、家の物置にずっとあったやつを僕が見つけて、それで…」 英一の涙はかわき、跡を残している。 「なぜか、これをかけていると見えない文字やモノが見えるんです」 「そうダスかぁ。不思議だすなぁ」 「ご先祖さまの残していった奇天烈大百科もこれがなければ読めませんでした。」 「奇天烈大百科?何ダスか?ソレ?」 ビン底の男は首をかしげる 「ご先祖さまの発明した古今の発明品が、作り方から、使用用途まで全部記してあるスゴイ本です」 「ははあ、そうゆうものがあるんダスなぁ」 「…でも、僕も一台、発明本の中からロボットを作ったんですが、何がわるいのか、動いてくれないんですよ」 「ほほお、」 「殺助っていう、ちっちゃいホームヘルパーみたいなかわいらしい奴なんですが…」 「ホームヘルパーダスかぁ。うちは汚れ放題だからぜひ来てほしいダスなぁ。」 それを聞いて英一は肩を落とす。 「動けば…の話ですけど…」 「まあ、そう気をおとさないで。」 その肩に軽く手を置き、 「そうだ、いいことを教えてあげるダス。」 そう言って、男はポンッと手を打った。 「??」 そして何事かを耳元で囁き、 「困ったとき、この呪文を唱えるといいダスよ。英一君」 ぼそっと耳打ちを残して、男は立ち上がった。 「それじゃあ、ワスはそろそろ行かねばならんので」 じゃ、と右手を上げメガネの男は去っていく。 「待ってください!あなたの名前は…」 呼び止められて、男は振り返る。 「ワスダスか。ワスは勉三と言うダス」 「忘れちゃいけないダスよ。困ったときの呪文を」 メガネの男は土手の上に去っていった。 「…勉三さん…」 次の日、メガネをかけ登校する英一。 「おい、メガネ。あれほどメガネかけてくんなつったろ」 「俺らのことナメてんのか」 いきなりのピンチに動揺する英一。 しかし、すっかり原作をかけはなれ粗暴化したブタゴリラとトンガリは待ってくれません。 「よし、そのメガネわったろ」 「誰かほうきもってこい」 いよいよ切羽詰った英一の頭に、昨日勉三から教えられた呪文が浮かぶ。 おもわず、その言葉を口にしていた。 「スペクタクルス!」 その瞬間、まばゆい光がメガネから放射され、まわりのいじめっ子達を吹き飛ばす! 英一の右手はいつのまにかメガネの縁を掴み、ポージングをとっていた。 「ぐ、いてえ…」 「これは、一体…」 騒然とし、驚愕の視線を浴びせるクラスメイト達を前に、 教室から英一は飛び出した。